ロゴマークを作るとき、赤い背景に白い文字を置くと「ユニクロっぽいな」と感じます。
ロゴの形も、ブランド名も関係ありません。
ただ色を置いただけで、特定のブランドが頭に浮かんでしまう。
これは偶然ではありません。
色の組み合わせが、ブランドの「記憶装置」として機能しているからです。
この記事では、色がブランドの記憶をどう支配するのか、そのメカニズムを解説します。
そして「うちのロゴが他社に似ている気がする」という違和感の正体と、ブランドカラーを戦略的に選ぶための視点を紹介します。
赤い背景に白い文字。それだけで「ユニクロ」が浮かぶ理由

色の組み合わせは、ブランドを想起させる最も強力なトリガーです。
25年デザイン業界にいて、ロゴマークのデザイン中に何度も経験してきました。
赤い正方形の背景に白文字を置くと、その瞬間に「ユニクロ」が頭をよぎります。
形を似せたわけでも、文字を真似たわけでもない。
色の組み合わせを置いただけで、あのブランドが割り込んでくるのです。
これはデザイナーだけの感覚ではありません。
多くの方が、この「色だけでブランドが浮かぶ」体験をしているはずです。
色の組み合わせは、ロゴの「形」より先に記憶される
人間の脳は、形や文字よりも先に色を認識します。
ロゴマークの輪郭やフォントを正確に思い出せなくても、「赤と白」「緑と黒」という色の組み合わせは記憶に残ります。
つまり、色はブランドの最も外側にある「記憶の入口」として機能しています。
形やコピーよりも手前で、色がブランドの第一印象を決めているのです。
ここで少し試してみてください。
「オレンジ色の背景に、緑色の文字」


何が思い浮かびましたか?
牛丼の吉野家が思い浮かびませんでしたか?
お腹が減った気がした方もいるかもしれませんね。
「赤い背景に、黄色の『M』の文字」


これはどうでしょう。
マクドナルドですよね。ポテトやハンバーガーの匂いまでしてきそうです。
ロゴの形を正確に描ける人は少ないはずです。それでも色の組み合わせだけで、ブランド名だけでなく商品や体験まで一瞬で想起できてしまう。
これが「色がブランドの記憶を支配する」ということです。
色の「所有者」は、すでに決まっている

この現象をもう少し掘り下げてみましょう。
ドーナツ型の円形に緑と黒。これだけで「スターバックス」を感じませんか?
ミントグリーンの背景に黒い英文字。「ティファニー」が浮かびませんか?
ロゴの細部を思い出せなくても、色の組み合わせが一致した瞬間に「あのブランドだ」と脳が反応します。つまり、その色の組み合わせの「所有者」はすでに決まっているということです。
色という記憶装置を、強いブランドが先に押さえてしまっている。
「〇〇っぽい」と感じた時点で、そのブランドに頭の中を支配されている証拠なのです。
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ブランド・エクイティとは「頭の中の陣取り合戦」である
ブランド・エクイティとは、消費者の頭の中にあるブランドの資産価値のことです。
品質や価格だけではなく、「そのブランドから連想されるすべてのイメージ」がブランド・エクイティを構成します。
色は、このブランド・エクイティの中でも極めて強力な要素です。
色は、ブランドの記憶装置として機能する
赤×白でユニクロ、オレンジ×緑で吉野家、緑×黒でスターバックス。
この反応は、長年にわたる一貫したブランド体験の蓄積によって作られたものです。
店舗に行く。広告を見る。紙袋を持ち歩く。その都度同じ色が目に入り、繰り返し脳に刻まれていきます。やがて色の組み合わせを見ただけで、ブランド名・商品・体験が自動的に想起される状態になる。
これがブランド・エクイティにおける色の役割です。
色は、ブランドの記憶を保存し、瞬時に呼び出すための装置として機能しています。
好き嫌いで色を選ぶと、強いブランドの記憶に引っ張られる
ここに、多くの中小企業が陥る問題があります。
ブランドカラーを「社長の好きな色」や「なんとなく良さそうな色」で決めてしまうケースです。
色選びに戦略がないと、無意識に自分が見慣れた色の組み合わせ──つまり強いブランドがすでに押さえている色──に寄っていきます。
結果として出来上がるのが「どこかで見たことがあるロゴ」です。
「作ってもらったロゴが他社に似ている気がする」という違和感の正体は、色の組み合わせがすでに他のブランドに「所有」されていることにあります。
造形の問題というより、色選びの判断基準の問題です。
「どこかで見たロゴ」が生まれる構造を、4階層で分解する
この問題を、ブランド戦略の4階層フレームワークで整理してみましょう。
色の問題は「戦術」ではなく「戦略」の欠如から起きる
多くの場合、色の選定は「戦術(How:どう届けるか)」の段階で行われます。
ロゴを作る、Webサイトを作る、名刺を作る。
その過程で「何色にしましょうか?」と聞かれ、好みで決める。
しかし、本来の流れはこうです。
自社は何のために存在するのか
誰に届けるか
どんなイメージで記憶されたいか ← ここで色の方向性が決まる
ロゴ・Web・名刺に色を展開する
色の問題は「戦術」で起きているように見えて、実は「戦略(What)」の段階で「どう記憶されたいか」が定義されていないことが原因です。
戦略がないまま戦術に入るから、好き嫌いに頼るしかなくなります。
私がこれまで手がけたロゴ制作の実績でも、色の方向性は必ず戦略段階で検討しています。
実際の制作プロセスについてはロゴ制作の実績もあわせてご覧ください。
「どう記憶されたいか」が決まれば、色は自ずと絞られる
「誠実で堅実な印象を地元の製造業経営者に持ってもらいたい」と定義すれば、ポップな暖色系は選択肢から外れます。
「若い後継者世代に新しさを感じてもらいたい」なら、同業他社が使い古した紺やグレーは避けるべきだと判断できます。
さらに、競合の色を並べて確認すれば、「すでに所有されている色」を避けることもできます。
つまり、4階層の上位(目的→目標→戦略)が定まっていれば、「好き嫌い」ではなく「戦略的な判断」として色が選べるようになります。
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ブランドカラーは「好きな色」ではなく「記憶されたい色」で選ぶ
ここまでのメカニズムを踏まえて、自社のブランドカラーを検討する際の視点を2つ紹介しましょう。
まず競合の色を並べて「空いている色」を探す
同業他社のロゴやWebサイトのスクリーンショットを並べてみてください。
おそらく、同じ色の組み合わせに偏っていることに気づくはずです。
例えば、士業のWebサイトは紺×白の組み合わせが非常に多い。
建築・土木は青やグレー系が集中します。
その中で同じ色を選べば「どこかで見たことがある」サイトになるのは当然です。
競合が使っていない色の領域こそ、自社のブランド・エクイティを築ける余白になります。
ロゴにおける色の使い方のバリエーションはロゴデザインの事例集でも紹介していますので、参考にしてみてください。
デザイナーに伝えるべきは「好み」ではなく「意図」
デザイナーに「青が好きなので青でお願いします」と伝えるのと、「地元の製造業経営者に誠実さを感じてもらいたい。競合はこの色を使っているので、差別化したい」と伝えるのでは、出来上がるデザインはまったく違うものになります。
色の「好み」を伝えるのではなく、色に込める「意図」を伝える。
この違いが、「どこかで見たロゴ」と「記憶に残るロゴ」を分けます。
ブランドカラーは、言葉より先に届く名刺である
正確なデザインが思い出せなくても、色の組み合わせだけでもブランド名が瞬時に想起されることがあります。
色は、言葉よりも先に、形よりも先に、相手の記憶に届きます。
いわば、最も速く届く名刺です。
その名刺に載せる色を、好き嫌いで選んでいいはずがありません。
自社のブランドカラーを見直すなら、まず「自社はどう記憶されたいか」を定義すること。
そして、競合の色を並べて「空いている色」を探すこと。
この2つから始めてみてください。
それでは、今回はこのへんで。
