「多分、こういうことだろう」
直感や思い込みで仕事を進めて、後で見当違いだったと気づく。
取引先の意図を早合点する、似た案件の指示を取り違える。
少し考えれば正しい判断ができたはずなのに、何故その瞬間は直感で「こうだな」と判断したのかと、不思議に思うこともあります。
直感によるミスは、あなたの判断力が低いからではなく、脳が直感的に判断する動作を優先させたからです。
この記事では、行動経済学の視点から直感的な判断(システム1)と、熟考し判断する(システム2)について解説します。
大事なのは、直感をなくすことではありません。
直感に頼りやすい状況を知り、肝心な場面に立ち止まることです。
行動経済学では、直感と熟考を「システム1」「システム2」と呼ぶ
行動経済学は、人が非合理的な判断や行動をしてしまう仕組みを解き明かす学問です。
その中心にあるのが、脳の「認知のクセ」という考え方で、基本になるのが、2つの思考モードです。
- システム1:直感で素早く判断する
- システム2:じっくり情報を分析して判断する
あの時の判断ミスの正体も、この2つで説明ができます。
システム1は直感、システム2は熟考

システム1は、直感や感情を基に瞬時に判断します。反応が速いのが持ち味です。
システム2は、時間をかけて情報を整理し、過去の経験などと照らし合わせて判断をします。慎重に進めるぶん時間がかかります。
この2つは、日常生活や仕事中でも無意識に切り替わっています。
コーヒーを注文する場面で考えてみましょう。
友人が「ブレンドコーヒーで」と言った直後、つられて「私も同じ物で」と頼む。
これはシステム1が働いた状態です。
自分の体調や仕事への影響などを考える間もなく、反射的に決めています。
反対に「今日はコーヒーを2杯飲んでいるから、今はやめて他のものを注文しよう」と判断するのはシステム2が働いた状態です。
コーヒーの注文では熟考とまではいきませんが、ひと呼吸おいて、考えてから注文を決めています。
私自身は、システム1が働きやすいタイプです。
食事の注文も早く、メニューを開いてすぐに決めます。実際、深く考えずに注文しています。
逆に家族はじっくり考える人で、隅々まで見てから注文します。同じ場面でも、人によって、状況によって、使うモードは変わりますね。

「私も同じで!」と即答後、コーヒーを目の前にして「今日3杯目だな、、」と思うこともよくあります。
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熟考(システム2)が、いつも正しいわけではない
直感的に判断して間違えることがあるならば、システム1よりシステム2の方が優秀だと思いますよね。
でも、これ自体もひとつの思い込みです。
もし、すべての判断や意思決定をシステム2で深く考えていたら、脳が疲弊してしまいます。
私たちは日々、多数の判断や選択をしています。
朝食をパンにするかご飯にするか?その程度のことまで毎回じっくり考えていたら、一日が回りませんよね。
瞬間的に決められるシステム1があるからこそ、私たちは小さな判断を次々と片づけ、本当に頭を使うべきことに集中できます。
直感は、性能の低い思考ではありません。生きていくのに欠かせない機能です。
瞬間的な判断を誤ったからといって「直感で決める自分はダメだ」と落ち込む必要はありません。
問題は直感そのものではなく、使う場面にあります。
思い込みがあると、人は深く考えずに直感(システム1)で判断してしまう
思い込みがあると、私たちは深く考える前に直感で判断することが多くなります。
システム2の出番でも、システム1で先に処理してしまうのです。
簡単なクイズで体験してみてください。

ノートとペンのセットが、合わせて110円です。
ノートはペンより10円高い。それぞれの値段はいくらでしょうか?
「ノート100円・ペン10円」と答えた方は、システム1で判断しています。
ですが、落ち着いて計算すると、正解はノート60円・ペン50円ですよね。
ノートを100円にすると、ペンとの金額差が90円となり、計算が合いません。
「合わせて110円で差額10円だから、ノートは100円」というのが、ここでの思い込みです。
思い込みからシステム1が瞬間的に判断し、結果的に計算ミスとなったのです。
このような判断ミスをなくすためにも、いったん立ち止まってシステム2を働かせる必要があります。
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私たちが「システム1」で決めてしまいがちな、6つの状況

私たちはどんなときに、深く考えずシステム1で決めてしまうのか。
次の6つの状況が当てはまります。
- 疲れているとき ── 考える気力がなく、瞬間的に決めてしまう
- 情報や選択肢が多いとき ── 多すぎて、じっくり考えるのをやめてしまう
- 時間がないとき ── その場で判断しなくてはいけない
- モチベーションが低いとき ── 腰を据えて考える気になれない
- 見慣れた情報に接しているとき ── 「いつものこれ」で、深く考えずに判断する
- 気力や意志の力が残っていないとき ── 決めるのが面倒で「これでいい」と流す

心当たりのある項目が、いくつもありませんか?
私たちの毎日は忙しく、受け取る情報も多い。その中から何かを選ぶ機会も絶えません。
ほとんどの人が毎日、システム1で決める状況に置かれています。
疲れていて、時間もなく、情報も多い。
条件が重なるほどシステム1への傾きは強くなり、思い込みによる判断ミスが起きやすくなります。
チラシ制作の現場で、思い込みで判断を誤りかけた

「条件が重なる」感覚を、デザイン制作の現場で痛いほど味わったことがあります。
デザインの仕事を始めた頃、私はスーパーマーケットのチラシ制作を担当していました。
1本のチラシの掲載商品は、およそ200点。それを週に2〜3本、修正案件や新規制作と並行して進めます。
特売品の価格は、締切ギリギリまで変更が入ります。
常に何かの作業に追われている状態でした。
やっかいなのは、似た商品名が多いことです。
例えば醤油、各メーカーから似た名前の商品が出ていて、ある程度のサイクルで商品が特売に回ってきます。すると、「この商品の特売価格はいくら」と瞬間的にわかるようになります。
ある日、私は特売Aの価格修正の連絡を、新規制作していた特売Bの修正と思い込んで処理しかけました。
時間がない、情報が多い、見慣れた商品名、休みなく続く作業。
先ほどの6つの状況がいくつも重なり、システム1が働きやすい状況でした。
幸い、データチェックの工程でこの取り違えに気づき、事なきを得ました。
データチェックという仕組みが、いったん立ち止まってシステム2を働かせる役割を果たしてくれました。
「ここで必ず確認する」という工程(システム2)を持っていたから、システム1の判断ミスを止められたのです。
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直感を否定せず、大事な判断に「ひと呼吸」を置く
直感で素早く決めているとき、私たちの脳ではシステム1が働いています。
じっくり考えているときは、システム2が働いています。
思い込みがあると、システム2を使わず、深く考えないまま直感で決めてしまう。
とはいえ、システム2が特別に優秀なわけでもありません。
大事なのは、2つを場面によって使い分けることです。
行動経済学が教えてくれるのは、「直感を消す方法」ではありません。
直感は、毎日の判断を支える欠かせない機能です。
直すべきは直感そのものではなく、それを使う場面の見極めです。
今日から試せることは、2つです。
- システム1で決めてしまいやすい6つの状況を、覚えておく
- 大事な判断の前に、ひと呼吸おく仕組みを持つ
仕組みは、おおげさなものでなくて構いません。
私のデータチェックのように「ここで必ず確認する」と決めておく。
あるいは、発言の前にいったん間を置き、頭の中を整理してから話す。
私自身、直感で動きがちな自覚があるので、人前で話すときはこの一拍を意識しています。
それだけでも思い込みのまま突っ走る判断は、ぐっと減ります。
それでは、今回はこのへんで。
人がつい陥る判断のクセは、ほかにもあります。
「真ん中」を選びがちな心理については、こちらでも触れています。







