デザイナーに「高級感のあるデザインで」と伝えて、出てきたものが思っていたのと違う。
こういう経験をされた方は、少なくないと思います。
伝え方が悪かったのか?
デザイナーのセンスが合わなかったのか?
多くの場合、原因はそのどちらでもありません。
「高級感」のような抽象的な言葉は、クライアントとデザイナーとで、思い浮かべている具体的なイメージが違うことがよくあります。
伝わっていないのではなく、お互いに「伝わったつもり」になっている。
ここにズレの正体があります。
この記事では、美容系の個人サロンで名刺を制作した事例をもとに、なぜイメージのズレが起きるのか、そしてどうすれば防げるのかをお伝えします。
「高級感」という言葉は、デザイナーとクライアントで別のものを指している

デザイナーに「高級感のある感じで」と依頼して、仕上がりが思っていたものと違ったとき、多くの方は「伝え方が足りなかったかな」と思うはずです。
ですが、問題は伝え方ではなく、同じ言葉が指している「具体物」がそもそも違うことにあります。
デザイナーが思い浮かべる「高級感」—— 引き算の上質さ
デザイナーが「高級感」と聞いてイメージするのは、余白を活かした落ち着いたレイアウト、抑えたトーンの配色、細い書体といった「引き算のデザイン」であることが多いです。
装飾を削ぎ落とすことで生まれる上質さですね。
ハイブランドのパッケージや高級ホテルのパンフレットに見られる方向性です。
クライアントが思い浮かべる「高級感」——高級なモチーフそのもの
一方、クライアントが「高級感」と言うとき、思い浮かべているのは大理石、ゴールドのライン、キラキラした光沢のような「高級なモチーフ」そのものであることが少なくありません。
引き算ではなく、高級に見える素材や装飾を「足す」ことで高級感を表現するイメージです。
言葉が一致しているから、ズレに気づけない
厄介なのは、「高級感で」「わかりました」とやりとりが成立してしまうことです。
お互いに違う具体物を思い浮かべているのに、言葉としては合意できている。
このまま制作が進むと、校正の段階で「思っていたのと違う」が発生します。
「高級感」に限らず、「おしゃれ」「かわいい」「シンプル」「ナチュラル」といった言葉も同じ構造を持っています。
抽象語でイメージを伝えようとする限り、この問題は起こり得ます。
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美容系個人サロンの名刺制作で、イメージのズレが起きた
ここからは、実際にイメージのズレが起きた案件の話です。
3つの方向性から「イメージ系」を選んだ理由
クライアントは美容系の個人サロンを経営されている方で、名刺デザインの依頼でした。
最初の打ち合わせで、私から3つの方向性を提示しました。
- 店名をメインに据えたショップカード風のデザイン
お店の認知を優先したい場合に向いています。 - 施術者の顔写真を使うパターン
個人事業主であれば「誰がやるのか」が選ばれる理由になるため、私としてはこの方向をおすすめしていました。 - 雰囲気で見せるイメージ型
ストックフォトなどの素材画像を使用するデザイン。
顔出しをしたくないこと、新規撮影の予算が無いことから、3つ目のイメージ型を選択されました。
個人事業主様で顔を出さない判断もよくあるので、イメージ型で進行しました。
校正を重ねて出てきた「もっと高級感がほしい」
基調色をピンクに決め、数回の校正を経たタイミングで、クライアントから「背景をピンクのベタ塗りではなく、もっと高級感のある感じにしたい」というリクエストがありました。
正直に言うと、この時点で「ここから時間がかかるだろうな」とは感じていました。
これまでの経験上、「高級感」のような抽象的な言葉での修正依頼は、お互いのイメージをすり合わせるのに時間がかかることが多いからです。
ピンクがベースカラーとして決まっていたので、私はピンクとゴールド系の組み合わせかなと予測していました。
クライアントに画像を出してもらったら、想定と全く違った
ここで私は、イメージのズレがありそうだと感じていたにもかかわらず、「高級感とは具体的に何を指していますか?」という掘り下げをしませんでした。これは私の落ち度でした。
ただ、ズレの可能性は感じていたので、「お客様が感じる高級感のあるピンク系のデザインを、ネットの画像などで探して見せていただけますか?」とお願いしました。
クライアントが提示したのは、ピンクの大理石のストックフォトでした。
私が予測していた「ピンク×ゴールド」とも違う。
デザイナーとして最初に思い浮かべていた「引き算の上質さ」とはまったく違う方向です。
25年この仕事をしていても、言葉だけでイメージを正確に当てることはできない。
改めてそう実感した瞬間でした。
抽象語が出た瞬間に、画像を見せ合うプロセスに切り替える
イメージのズレは、伝え方の技術で解決する問題ではありません。
「言葉で伝える」こと自体に限界があるため、プロセスそのものを変える必要があります。
①「具体的に何を指していますか?」と聞く
デザイナーに依頼するとき、あるいはデザイナーとして依頼を受けるとき、「高級感」「おしゃれ」「シンプル」といった抽象語が出たら、まずそれが何を指しているのかを言葉で掘り下げます。

高級感は、たとえばホテルのロビーのような感じですか? それともジュエリーショップのような感じですか?
このように選択肢を出すだけでも、方向性の幅はかなり絞り込めます。
また、「なぜ高級と感じますか?」と投げかけることで、より具体的な言葉を引き出すことができます。
② 言葉で絞り込んだら、参考画像を3〜5枚出してもらう
言葉である程度の方向性が見えたら、次のステップとして「そのイメージに近い画像を、ネットで3〜5枚探して送ってください」とお願いします。
大事なのは、完成形に近い画像を求めるのではなく、「色」「質感」「雰囲気」のどれかが近いものでいいと伝えることです。
完璧な参考画像を探そうとするとクライアント側の負担が大きくなるので、「この方向」が伝わる画像で十分です。
デザイナー側も自分の解釈を画像で見せる

依頼する側だけが画像を出すのでは、一方通行になります。
デザイナー側も「私はこういう方向で考えていました」と自分の解釈を画像で示すことで、ズレがあるかどうかをその場で確認できます。
本件では、クライアントのイメージを元に3点の画像を提案し、デザインを作成しました。
最終的には、3案それぞれが採用され、「名刺」「ショップカード」「紹介カード」の3点セットのご注文をいただきました。
イメージのすり合わせをしていなければ、校正のたびに「ちょっと違う」を繰り返すことになっていたはずでし、3件の依頼にも発展しなかったことでしょう。
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名刺・ショップカード・紹介カードは、目的が違うからデザインも変わる
イメージの共有がうまくいったとして、もう一つ知っておいてほしいことがあります。
名刺・ショップカード・紹介カードは、見た目は似ていますが目的が違います。
目的が違えば、最適なデザインも変わります。
名刺は「誰がやるのか」を伝えるツール
名刺の第一の役割は、施術者やサービス提供者が「誰か」を伝えることです。
今回の名刺では、ピンクの曲線の入った画像を採用、曲線の流れ上にお名前を掲載し、視線の誘導を意識したデイザンにしました。
ショップカードは「どこにあるのか」を伝えるツール
ショップカードは、店舗の場所や営業情報を伝えるためのもの。
ここにはゴールドラインの入った幾何学パターンの背景を使いました。
店舗としてのブランドイメージを印象づける役割を持たせています。
紹介カードは「いくらでできるのか」を伝えるツール
紹介カードは、既存のお客様が知人に渡すためのもの。
紹介特典や価格を伝えるツールです。
水彩画風ですが、クライアントが最初にイメージしていた「大理石」の模様に最も近いテイストでした。
本件では「高級感」のイメージをツールの目的に合わせて使い分けました。
この判断ができるのが、デザイナーに依頼する意味でもあります。
最後に、今回のまとめ
デザイナーにイメージを伝えるとき、「高級感で」「おしゃれに」という言葉だけで進めると、お互いの頭の中にある具体物が違ったまま制作が進んでしまいます。
ズレを防ぐために必要なのは、伝え方の技術を磨くことではなく、抽象語が出た時点で具体物(画像)を見せ合うプロセスに切り替えること。
これだけでデザイン制作のやりとりは大きく変わります。
名刺デザインのレイアウトそのものについて知りたい方は、「名刺レイアウトのデザインサンプル12選」もあわせてご覧ください。
デザインの基本的な考え方を押さえたい方には「名刺デザインのコツ」の記事も参考になります。
それでは、今回はこのへんで。







